「…ふうん」
 代わりに応えたのはユンタだった。目の前の『そいつ』の顔をじっと見詰め――さして面白くもなさそうに嘯く。
「なんだ。お前―――二重人格とかだったってわけ?
 …よくわからんけど」
「ま、それが一番解りやすい理解かな」
 『そいつ』は、肩を竦めてユンタの言葉を肯定した。
「細密に言うと『完全に』そういう理屈だって訳でもないが…こんな風に、外見にまで変化が出たりするわけだし。――でも、その訳までは、詳しく説明しても理解はできねーだろ」
「うん、多分」
「だろ?だから、そーゆーことにしといてくれや」
 そう言って少年はまた笑った。
「元々、時期が来たら『こう』なるようにプログラムされてたんだよ。…『俺』自身がそのことに気付いてしまったのは、イレギュラーだったけどな。
お陰で、危うく出てくる前に始末される所だった。…おっとその節は、お前の勇敢な、後先顧みない行動のお陰で助かったよ。礼を言っておかなきゃあな」
 …そんな。
 頭ががんがんとうるさく鳴っている。プログラム。二重人格。じゃあ…あいつは消えて。そして代わりに、今、目の前にいるこいつが…
 取って、代わったと。
「理解したかな?」
 黒い髪の少年は笑う。あくまで絶やさず、笑い続ける。
 ハヤトは、薄っぺらなスクリーンに映された画でも見るように、その表情を見ていた。
「…まあ、認められないというのなら。別に、無理に俺を『ジャック』だと思ってくれなくてもいいんだがな。…そうだな、」
 そこで少年は―――この上なく質の悪い悪さを実行に移そうとする悪餓鬼のような眼になって、こう言った。
「ここで一つ、豆知識だ。『ジャック』ってのは、実は本名じゃなくてね。とある奴が勝手に付けた、あだ名みたいなもんなんだ。本当の名…いや、
 認識コードは、00J」

 …その、無機質な響きは。
 どこかで。

「で、――”J<ジェイ>”の二重人格なんだから…
 俺の事は、”W<ダブル>”とでも呼んでくれれば良いんじゃねえかな?」
 嬉しそうに。
『ダブル』と名乗った、その少年は。
 今までの中でも、格別に愉しそうな―――
 今までずっと、最初から変わらない。―――瞳の笑わぬ笑顔で言った。



「まあすぐ死ぬ奴に憶えて貰っても、あんまり意味はないけどな」