10.



「…お前、なんか俺に隠してることない?」
「え。」


 何ごともない日常が3日続き。
 学校帰りに落ち合った例の如くのバーガーショップで、リュータは向かい合わせに席に着いたハヤトに唐突にそんなことを言った。
「…とくに何もないです」
「本当か?」
「マジです。」
「…あっそう」
 予想よりも割とあっさり引き下がって、リュータはふいとハヤトの目に合わせていた視線を外す。ハヤトは内心力いっぱい胸を撫で下ろした。
「そういえば、今日はユンタさんはどうしたんですか?」
 気付かれないように、さりげなく話題を逸らす方向へもっていく。
「留守番」
「…何でですか?」
「ガラスの付け替え業者が来んだ、今日」
「……………。
 …そうですか」
 例の騒ぎの件は、結局留守にしている間に空き巣に入られた、ということにしたらしい。…色々とかなり無理があるような気がするのだが、やはり所詮は都会の無関心、案外どうにでもなるものだ。ただ割れたガラスばかりはどうにもならず、リュータはただでさえ余裕のない家計から余計な出費を出すことになってしまった。
「…あの…やっぱ、僕、弁償を…」
「やかましい」
 おそるおそる言ったハヤトの台詞を、リュータはずばりと言下に切って捨てる。
「自力で金も稼げない中坊がんな余計なこと考えなくていいんだよ。…何度も言わせんな」
「うう…はい」
 そう言われてしまうと言葉もない。…現実に、こうして今噛り付いているチーズバーガーだって所詮は親の金なのである。義務教育中の我が身が恨めしい。
「それじゃあ仕方ありません…出世払いってことにします」
「割としつこいな…お前」
「大丈夫です、僕出世しますから」
「いやそんな澄み切った目で言い切られても…」
「いや、します」
「……………」
 リュータはハヤトの顔をしばし頬に汗を一筋垂らして見詰めていたが、やがて呆れたように小さく声をたてて笑った。それを見て、ハヤトは、ああ、久し振りにこの人の笑顔を見たなと思う。もとからそんなに頻繁に笑う方でもなかったが、最近…こんな事態になってからは特に、仏頂面しか見ていないような気がする。無理もないが。
 それだけに嬉しくなって、ハヤトもつられて笑い―――
 同時に、心の中で、ごめんなさい、と言った。
 …実は。
 隠していることは、あるわけで。











「……………

 お前、やっぱり、馬鹿なんだろう」

「そんなことないよ。生憎と、近所でも学校でも評判の優等生で通ってるんだぜ、いささか手前味噌では、ありますが。あ、これ水。こっちはパンとかお菓子とか。…食べなくてもいいとかって絶対ウソだろ?じゃあその口は何のために付いてるんだよ」
「……………………」
 とりあえず無駄口を叩くためではないのだ、とでも主張するかのようにむっつりと黙り込んで、しかし眼前に突き付けられたペットボトルは律義に受け取ると、ジャックは重たげな溜め息をつく。ハヤトはそれを聞こえなかったことにした。持ってきた鞄の中身をがさがさとひっくり返していく。
 ふとその手を止めて、しゃがみこんだ低い位置から顔をじとりと見詰めてみる。あさっての方向を向いていた相手はしばらくしてからそれに気付き―――心底うんざりしたような顔で、大儀そうにボトルの蓋を開け、中のものを一口飲んで見せた。
 それを見て、ハヤトは満足げににっと笑った。

 …話は、3日前の、あの時まで遡る。